SSの続き
下の記事のSSは斎のタイムアップで中途半端になりましたが、続きを書いておこうと思います〜。
バイト中、手が空いた時色々妄想してましたが 中々捻くれた主人公であります。
苛っとしたり、じれったかったりするかもしれませんが、彼の心を出来るだけ繊細に表現していきたいと思います。
表現力の限界に挑戦であります。(´∀`*)
そして以下、暴力表現(喧嘩)が含まれる続SSです。
「春人(はると)君、神隠しにあったんだって?」
「儀式にいた人たち、消えた瞬間は誰も見てないんですって。」
儀式の最後。
消えた双子の兄の春人の噂で町は持ち切りだった。
神隠しだの何だの、口さがない人たちの噂は一人歩きしていく。
そして、当然双子の弟の俺の話もついて回る。
「弟の秋吉君は最近いい噂聞かないわね。」
「金髪に染めて、耳にピアスが沢山開いてたわ。」
「身長も高くなっていて、ちょっと恐い感じ。」
高校に入って回数は減ったものの、喧嘩や暴力沙汰は俺の周りに絶えなかった。
回数が減ったのだって、やたらめった喧嘩を売ってくる馬鹿が少しだけ学習だけで、結局喧嘩を吹っかけてくる事には変わりなかった。
「おい笹野。オメーのにーちゃんだろ神隠しにあって消えたのって。」
高校の帰り、歩いて坂道を下っていたらそうやって絡まれた。
兄貴のネタで絡んでくる奴がいないわけではないが、俺が一番キレるネタだって知らずに絡んでくる馬鹿がまだいたなんて、少し笑える。
「あぁ?」
「うちのババァが噂してっぞ。春人君、もう二年も行方不明だけど、まだ心配だわぁ、だってぐはッ!!!」
相手が小馬鹿にしたように口真似をしているのを、最後まで聞かずに思いっきり拳で殴りつけた。
思いがけないパンチに、相手は面白いぐらいに吹っ飛んで地面に倒れた。
「胸糞ワリィ話すんのはどの口だ、あ?この口か?」
そう言って硬いローファーで顎を蹴り飛ばす。
手加減せずに蹴りを入れたから、切れた口から血が飛び散った。
汚れた靴を相手の服で詰るように拭くと、相手を見下して言う。
「二度と奴の話はすんじゃねぇ。でないと残ってる歯ぁ全部砕いてやる。」
ぞっとするほど冷たい、それでも冗談ではない事を感じ取った相手は、ワナワナと震えたまま道路に這いつくばっていた。
「秋吉君。」
後ろから、誰かが呼び止める。
斜めに振り返ると、そこには眼鏡をかけた、優等生を絵に描いたような男が立っていた。
「あんだよ、委員チョ・・・。」
「さっき、人を殴ってたよね・・・?」
俺と同じくらいの目線だから、それなりに身長のある男は高校の生徒会長なんかをしている。
昔、春人と仲がよかった奴だ。
「だったら何だよ。」
「何を言われたのか分からないけど・・・暴力はよくないよ。」
何を言うかと思えば、下らな過ぎる言葉に俺は、ハンッ、と鼻で笑った。
「委員チョには関係ないだろ。一々口突っ込んでんじゃねーよ。」
「っ・・・!」
そう冷たく突き放すと、また道を歩き出す。
「秋吉君!」
ぐいっ、と腕を引く委員チョにいよいよ苛立ちが積もって、相手にも聞こえる舌打ちをする。
「あんだよ!触んじゃねぇよ!!」
「お祭り行こう!」
「ふざけんなっ」
腕を振り解こうとするが、必死に腕を掴む委員チョは振りほどかれてもまた腕を掴む。
「今日神社でお祭りがあるんだ、屋台も出るし、行こうっ」
そう言って強引に引っ張っていく。
俺はそのまま必死の委員チョに強引に連れられて、数年間いかなかった神社にいくはめになった。
「あー、やっぱり屋台があるとお祭りだなーって感じがするね。」
俺が逃げないのを確認して腕を放した委員チョは、それでもチラチラと俺がいるのを確認するように時折視線をこちらへ寄越す。
委員チョの言葉には答えず、俺は堤燈を提げた木などに視線をやっていた。
どうでもいいから早くこのうざったい男から解放されたかった。
委員チョはそれこそ春人の幼馴染のような奴だ。
小学校から中学、春人が儀式を受けるまでの高校まで、ずっと一緒だった。
家に帰るといた事もあったし、その逆もあった。
委員チョは俺が興味をそそられる人間じゃなかったから、大して記憶に残ってない。
それでも春人が消えた当時は、必死に春人を探していたのを覚えている。
俺のところに何度も話を聞きに来たが、春人ともうずっと口を利いてない俺が詳しいことを知ってるはずも無いことを、当の本人が一番知っていたはずだ。
よくそこまで必死にやるな、と冷めた目で見ていた記憶がある。
大人たちも、あの穏やかで優しい春人を必死に探していた。
宮司や神主も。
それでも俺は制服のポケットに手を入れて、動かずにいた。
その大人たちの腹の内側を想像しただけで、俺は気分が悪くなって吐けそうだ。
―――春人君は特別な巫女だからね。特別に教えてあげよう・・・。
その日、俺は喧嘩で怪我した手を濯ぎに神社の古い蔵の裏にいた。
普段は人気が無い神社に俺以外の姿は無く、俺は喧嘩で怪我した手を保健室からパクって来た消毒液や絆創膏で手当てをしていた。
その蔵は古く、神社でも人の出入りなんて滅多に見た事が無かった。
そんな蔵のひび割れた壁の向こうから、少し上擦った神主の声が聞こえた。
―――春人君は100年に一度、異界に送られる巫女なんだよ。向こうでは神様の遣いとして王様に仕えるんだ。
とうとう痴呆がはじまったか、自分の妄想と現実の区別がつけられなくなってきたのかと、思われるような話の内容に俺は鼻を鳴らした。
―――粗相のないように、そうして王様を満足させてあげられるよう、私が相手になってあげるよ。
春人が何か言っているが、そちらは声がよく声が伝わってこなかったので聞こえない。
無理に聞こうと集中する気も無かったので、構わずにいた。
そうしてしばらく静かになって、やがて聞こえて来たのは春人の声。
それは熱を孕んだ様に上擦っていて、時折嬌声のようなものも混ざってきた。
俺はその一部始終を聞き、日が落ちて暗くなって二人が蔵を出て行くまで蔵の壁に凭れ掛っていた。
あの日以来、春人は神主と蔵に篭るようになった。
儀式が行われるその日までの一年間、神主は春人に特別授業をし続けたのだ。
そして儀式の最中に消えた春人を白々しく探し惑う神主を、俺は冷たい目で見ていた。
目の前の男は、その事を知ってもまだ春人を求めるのだろうか。
眼鏡をかけた、優等生を絵に描いたような男。
並んだ屋台にわざとらしくテンションを上げて、こちらに何かを言っている。
別に言うつもりはない。
何も知らない奴にそのまま伝えた所で、神主を悪者に仕立ててホラを吹いてるとしか思われないのは分かっている。
精々いない春人を探して躍起になっていればいい、俺にとって委員チョはその程度の存在だった。
「ココなんだよな、春人が消えたのって。」
いつの間にか屋台の列を抜けて、奥の方まで来ていたようだ。
目の前には明かりのついていない本堂が佇んでいた。
その隣にはあの蔵があった。
「用が無いなら、俺、帰るわ。」
委員チョの感傷めいた物に付き合うつもりは無い。
俺がココまで来たのだって珍しいくらいだ。
委員チョに引っ張ってこられたのも、この胸糞悪い場所にくるのも。
いい加減我慢するのも馬鹿らしくなって、そのまま引き止める委員チョを無視して人込みに紛れて行く。
「うっぜぇ・・・。」
そう呟いて、人気の無い手洗い場で顔を冷たい水で濡らした。
勺を置いて、水面に目をやるとそこに写っているものにぎょっと目を見開いた。
そこには、春人がいた。
水面に映った自分ではなく、黒髪で、ピアスも何も開けてない耳。
まるで水中に春人が潜っていて、こちらを見上げているような鮮明さがあった。
そしてすっとこちらに手を伸ばしてくる。
その手が水面に触れて、こちら側に出てくる瞬間、水が爆発したように高い水飛沫が上がり俺は思わず腕で庇った。
激しい雨のように降りかかる水飛沫が収まり、周囲が明るくなった。
そっと目を開けると、そこには見たことも無い景色と、見たことも無い衣装を着た、よく見知った顔があった。
「春・・・人・・・。」
思わず名前を呟いた。
名を呼ばれた春人は、にっこりと、微笑を浮かべた。