別件SSその2 Ver.金魚

 またパッ!!
 っと斎の頭に別件の話が出てきました。
 ドイツもコイツも中途半端に止まったままですが、所詮このブログは斎が記憶しきれない話しのメモ書きなので、覚えている内に ホクホクの内に書いて保存しておくに限ります。

では 以下別件SSなり(´∀`*)  




 ひらひらと揺れる奇麗な赤いヒレ

 光の反射で金色に光る奇麗なウロコ。

 優雅に泳ぐその姿はとても奇麗だった。

 
 此処は何処か其処かの水の中。


 ここに住む無数の魚は、皆一様に赤や橙の奇麗なウロコをしていた。
 たまに白い色が混じるものもいたけども、それはとても奇麗な模様を描いていた。

 特に、この国の王族達はピカイチの姿だ。

 滑らかに艶を放つ赤金色の体は憧れの的だ。
 
 水面に映る太陽よりも輝いていた。

 まるで其処に太陽があるようだと、初めてその姿を見た時に思った。

 「おい、黒衣(くろえ)。早く来い、間に合わないぞ。」

 「あぁ、今行く。」

 仲間に呼ばれて、俺はぼうっと眺めていた遠い水面から視線を戻す。

 黒衣。

 それは俺の名前、というわけではない。

 それは稀に生まれる、黒いウロコの仲間の総称だった。

 赤や橙のウロコが殆どの中、無数の卵から一人か二人しか生まれないその黒衣には個別に名前が与えられなかった。

 ある種突然変異である黒衣は、一様に虚弱で生まれて成魚になる前に死んでしまうからだ。

 どういうわけか、俺は同じ孵化期に生まれた同世代と同じように・・・いや、下手したらそれ以上に・・・ムキムキと育った。

 今では他の仲間より頭一つ分くらい飛び出ている。 

 今日は成魚の日。

 今までは稚魚として同じ孵化期に生まれた仲間と一緒に育てられてきたが、これからは成魚として仕事に就く。

 今はまだ何の仕事に就くかは決まっていない。

 優秀な奴は何人かもう決まってるらしいが、殆どは決まってない。

 というより、今は皆専ら目前のイベントに夢中だった。

 同じ孵化期に、皇子も生まれた。

 育てられた場所は違うが、成魚の儀には当然出席する。

 王族を近くで見るチャンスに、皆浮き足立っていた。

 俺は予め用意していた布を頭から被る。

 コレは俺の親と兄弟のウロコを縫い合わせて作ったものだ。

 家族は見事に金色揃いだったが、俺だけが見事に真っ黒だった。

 まさに黒衣が突然変異であることを物語っている彩色で。

 金、赤、橙の中に一人黒がいるとぽつーんとまるで染みのように目立ってしまう。

 それを気遣った母親が落ちたウロコで作ってくれたのだ。

 目深く布を被り、儀式が行われる広場に向った。


 式の間、俺はずっとこれからの事を考えていた。

 たまに垂れる前髪を後ろへかき上げながら、やはり黒衣である自分が働けるとしたら肉体労働系だろうか、と。

 だから周りが現れた皇子に感嘆の声を上げても、俺はまるで気付きもしなかった。

 そして気が付いたら儀式は終わっていて、周りには式を終えて屯する何人かの仲間がいるだけだった。

 ふう、と頭から被っていた布を外す。

 冷たい水が髪を撫でて行くのが心地よかった。

 ふと視線を上げると、遠くの方に何人かの大人に連れられている奴と目が合った。 

 ソイツが驚いたように目を見開いているから、俺は思わず自分の後ろを振り返ってしまった。

 ただ俺の後ろに何も驚くような何かが無かったから、そいつが驚いたのは俺の体の色にだという事が分った。

 今までずっと金色ウロコの布を被っていたのに、突然それが取れて黒いのが出てきたらそりゃビックリするか、と思わず納得してしまった。

 驚いているそいつは、見事な赤金色のウロコをしていた。

 俺は今までにそいつ以上のウロコの色を見た事が無かった。

 滑らかに光るソレはとても奇麗で、まるで太陽だった。

 無数いる稚魚の中で、俺の事を知らない奴もいるだろうから驚く事は不思議じゃないし、そんな反応には慣れていた。

 俺は金色の布を肩に掛けて、広場を後にした。

 

 数日後、王宮から一通の通達があった。

 
 通達に書かれていた通りの時間に、俺は王宮の正面の門を叩いた。

 黒い髪を後ろで束ね、ウロコの色に合わせた正装をして。

 王宮仕えの衣に身を包んだ仕官に案内されて、俺は王宮の奥へと足を進めた。

 通された部屋はよくある『謁見の間』みないな所で、まだ主が座っていない御簾が降りた玉座を前に、俺は胡坐を掻いて座り、頭を垂れていた。

 王宮からの急な呼び出しに、俺は動揺も昂揚もしていなかった。

 一言で言えば呼び出される理由が見当たらないのだ。

 俺が問題児であったり、後ろめたい事があったりするわけじゃない。

 逆に褒められたりする意味で呼ばれる理由も無いので、どう反応するのが正解なのか分らないのが正直な所だ。

 それでも王族の来室を知らせる銅鑼の音が響くと、少し、緊張した。

 衣擦れの音と御簾が上がる音。
 
 暫くして御簾が下げられる音がした。

「顔を挙げよ。」

 命ぜられて、俺は顔を挙げた。

 こちらから見て左手にその部屋に一緒に入ってきたこの国の将軍・・・兵役訓練の時に最初の一度だけ挨拶に来て顔だけは知っていた・・・と、右手に銀色と金色の奇麗なウロコを持つ細身の男・・・話しで聞く限りの王の右腕の大臣だろう。

 秀麗な容姿を持つと専らの噂だ。

 将軍が目配せでその部屋にいる仕官や警備の人間を退室させると、この部屋には俺と将軍と大臣と、王様の四人だけになった。

 「急な呼び出して驚いたであろう?よくきてくれたな。」

 王様の言葉に、俺は小さく頭を下げる。

 王様の言葉に、庶民である俺が答える事は許されていない。

 「して、そなたを呼んだのは他でもない。一つ是非任せたい仕事があるのだ。」

 御簾の奥で何か合図をする。

 大臣が頷くと、彼の背後にある扉を開いて誰かを呼んだ。

 現れたのは、滑らかな赤金色のウロコ。

 まるで太陽のような色彩の男―――成魚の儀があったあの日、俺を見て驚いていた奴だった。

 「私の息子だ。名をサワと言う。」

 また目が合うと、サワはニヤリ・・・て言う風に見えた・・・と笑った。

 「サワは今度どちらの国に行く事になった。」

 どちらの国、と聞いて俺は目を瞬かせた。

 どちらの国、と言えばこの「そこかの国」の隣の国である意味冷戦状態の国だ。

 一触即発とは言わないが、何かきっかけがあればまた戦争が起こってもおかしくない間柄だ。

 そんなどちらの国に行くという事はすなわち人質になると言う事だ。

 そんな話を俺にするのだから、何か嫌な予感がする。

 「そなたにはサワの「守」(もり)をして欲しいのだ。」

 守、と聞いて俺は首を傾げた。

 守、と言うくらいなのだからサワのお守りをすればいいのだろうか。

 ならば侍従など唸るほどいるだろうに、と訝しげにする俺に王は薄く笑うと、御簾の向こう側で手を振る。

 「なに、難しい事ではない。サワと一緒にどちらの国に行ってくれるだけでよい。それがそなたの仕事だ。」

 王族からの申し付けに不是を言えるわけも無く、かといって頷くにも考えてしまう内容に・・・普通なら何も考えずに是と答えるのだが・・・、俺は黙ったまま動かずにいた。

 そんな俺にサワは目を細め、こちらへと向ってきた。

 爪先が視界に入ると、反射的にサワを見上げた。

 「お前には拒否権は無い。たった今、この瞬間からお前は俺の物だ。」

 そう言ってサワの指が額に触れると、激しい力に弾かれたような・・・言えば強烈なデコピンをくらったような・・・衝撃に頭がガクンッと揺れた。

 「ッ!!!!」 

 強烈な眩暈に襲われ、思わず額を押さえる。

 しかし視界は安定せず、俺は薄暗くなっていく視界に意識を手放した。